基調講演:P2Pコミュニケーションの歴史的意義

情報セキュリティ大学院大学の林先生のご講演です.

内容

サイバースペースの特徴(「矢野直明:サイバーリアル・イズム(近刊)」より引用)
類似概念との対比
  • 電電公社のe2e:線は電電公社が貸してるもんだよ,全部公社のもので,全部公社が責任もつよ
  • e2e: Saltzer, Jerome H. 他[1984]:いわゆる「エンド・ツー・エンド」
  • darknet: 二つの全く異なる概念
    • 1:発覚の恐れなしに違法コピーが行えるアンダーグラウンドネットワーク
    • 2:電子的な弾圧が継続した場合のthe Internetの将来の姿
著作権におけるLaffer曲線

もともとは税制に関して書かれたグラフであり,「税率を上げれば税収が上がるとは限らない」という考え方を示す図。著作権でも同様に,著作権保護を強くすれば作品が増えるとは限らない.

  • 禁酒法のたとえ(The Prohibition Act):正規のバーは極少数,speakeasy(もぐり酒場)が横行,アル・カポネなどが幅をきかせる
論争すると,極端になる

権利を主張したい人は永久に主張したい
自由にしたい人は最初から完全に自由にしたい
著者の意思はどこに反映する?
いまのシステムは自由度を許さない.one-size.

三人寄れば文殊の知恵:

拡張すると,「衆愚の知恵の集合>賢者の知恵」である.これは元をただせば,民主主義と市場主義の原点ではないか?p2pはそのための手段になり得るものである.大変大きな価値を持つもので,殺してはいけない?....しかし,本当にそうだろうか?

正規分布ベキ分布

我々は「ネットワーク=誰とでも自由にcommunicateできるもの,階層構造などないもの」と暗黙に思っており,通常我々は,正規分布を意識している(「平均」を意識する)が,世の中で起きることは実はベキ分布なのではないか?

(ネットワークの)自然発生的階層性

1967:Milgromの実験「6次の隔たり」:何十億の人間がいるが,リンクとノードという考え方をすると,6hopでどの人にでも到達できる
1973:GranovetterのStrength of weak ties:「あなたは就職をする際にどの人の影響が大きかったですか」という調査をしたところ,意外と,weak ties*2な人の影響力が大きかった.
1998:Watts と Strogatz のシュミレーション
2002:Buchananによる体系化
2003:Barabasiによる「WWWのスモールワールド性とクラスター性」の発見:「WWWではいったい何回クリックすると,当該目的に到達できるか」の実験.ネットワークは意外に階層性を持っていることを発見.
では,階層を持つネットワークと,P2Pはどう関係する?

通信の定義

社会学辞典の文章(林先生):

通信[communication]
 主体相互間における情報の伝達。
 広義には病気の伝染,熱の伝導,細胞内の情報移動などを含むが,
 狭義には生物相互間とりわけ人間相互間の意志の伝達に限定される(以下略)。

まとめ

P2Pをファイルコピーだけに使うのなら,犯罪などに該当しようが,それはコミュニティの意味から外れて,ペリフェラルなことにすぎない.P2Pはもっと大きな地平を開くものであり,そこに注力すべきであろう.

質疑:

Q:(英文なのでわからなかったです(T_T))
A:私は30年以上NTTに在職し,「通信の秘密」を厳しく守ってきた.米国に比べてwire-tappingは圧倒的に少ない.しかし,9/11以後は,「通信の秘密」についての議論は,いままでのいわば「無菌状態」から,「ばい菌うようよ」な状態に放り出されたような感じ.しかし,現状の日本では,そのようなことに対して議論する材料もないような状態.

Q:林先生の「通信」の定義と,日本国法制の「通信の秘密」の「通信」には差異があるのではないか?
A:この定義はあくまでも最狭義の定義.

Q:Winny事件について,広い意味で,どう捉えておられるか,また,我々はどう見るべきか?(落合弁護士より)
A:昔,1985に音声パケット(今のVoIP)を考えていた時に他からは非常にいろいろ,何をバカなことを言っているのか,というように言われた.P2Pもそういう要素があるのではないか.Winnyは,自分が信ずる何かを担保するためにあるものであって,それがたまたま違法コピーなどに使われたのは細かい点でしかないだろう.

*1:顧客をAランク,Bランク,Cランクに分類する手法だそうです

*2:普段あまり関係のない人